単一分子のテラヘルツ計測

テラヘルツ電磁波は、さまざまな分子の振動周波数と整合し、分子の構造や機能などを調べるのに適しています。しかし、テラヘルツ電磁波の波長が100ミクロン程度と非常に長いため、これまでは電磁波の「回折限界」のために、数ミリメートル程度の領域にある非常に多数の分子の「平均的な情報」しか得ることができませんでした。

我々は、金属の通電断線を利用して原子1個程度のギャップを持つ金属電極を作り、その隙間に1分子を捕らえた「単一分子トランジスタ」を作製し、この金属電極をテラヘルツ電磁波に対するアンテナとして用い、1分子にテラヘルツ電磁波を集光することに成功しました。この方法を用いて、1個のC60分子がピコ秒程度の時間スケールで超高速に振動している様子を観測することにも成功しました。

分子振動の微細構造なども明らかにできる1分子のテラヘルツ計測が可能になったことにより、遺伝子やタンパク質の分子レベルの構造や機能の解析、分子レベルの情報に基づいた医薬品の開発など、物理、化学、生物学、薬学などの基礎から応用に関わる広い分野に大きな発展をもたらすと期待されます。

S.Q. Du, K. Yoshida, Y. Zhang, I. Hamada, and K. Hirakawa, Nature Photonics 12, 608 (2018).
DOI: 10.1038/s41566-018-0241-1

(左)単一分子トランジスタ作製に用いる金ナノコンタクトの電子顕微鏡写真とC60分子トランジスタの概念図、(右)単一C60分子が金電極上で振動するスペクトル。電子1個の出入りによるピークの微細な分裂が見える。
(左)単一分子トランジスタ作製に用いる金ナノコンタクトの電子顕微鏡写真とC60分子トランジスタの概念図、(右)単一C60分子が金電極上で振動するスペクトル。電子1個の出入りによるピークの微細な分裂が見える。